珈琲工房

彼の店の雰囲気を一言で表現するなら、アットホームというのが当てはまると思います。
 
 
店に入ると、手前側に5,6人が座れるカウンターがあります。そこから窓越しに外を眺めると、道路の向かいは花屋さん。そんな窓の外の景色もとても魅力的です。またカウンター席の正面の壁には格子状の木の棚があり、彼が大阪で買い集めてきたという一つひとつデザインが異なるコーヒーカップが大切そうに一つずつ収納されているのが見えます。
 
xiong2「お客さんにどのカップを出すかどうやって決めるの?」
乌咖啡「決まりはないけど、お客さんの雰囲気を見て出すかな。中にはこのカップでと指名する人もいるけどね」
 
店の奥にはテーブル席もありますが、面白いのはテレビを囲んでソファーが置かれた一角があることです。またその隣には彼が所蔵するCDや日中の書籍が並べられた棚があり、これらがアットホームな雰囲気を存分に醸し出しています。
 
店には彼のほか、アルバイトの学生が何人かいます。彼が常にカウンターの中にいるわけではありません。一人の女の子が任されて入っていることがしばしばでした。私はgongziが注文したチャイ(印度茶)を彼女が作る様子をじっと眺めていました。スライスした生姜に熱を加えたり、水や牛乳の分量を量ったり、鍋の近くに目線を置いてシナモンパウダーをふりかけたり…一つひとつの動作を細かく確認するように丁寧に仕上げていきます。彼女は端正な容姿でかなりの美人。その動作の一つひとつが真剣で理知的な印象ですが、店の雰囲気にマッチしていて冷たい感じでもありません。男性客の中には彼女がお目当てで来る人も少なくないのだとか。そういえば、カウンター席はなかなかの人気です。もう一人印象的なのは、いかにも理系の学生という感じの真面目そうな男の子。聞けば浙江大学の学生といいますから、国の重点大学に指定されているエリート大学の学生さんです。頭脳明晰で堅い印象の彼ですが、案外店の雰囲気に溶け込んで張り切っています。乌咖啡さんいわく「接客は人間関係に問題がなければ誰でもできるけど、カウンターの中は本当にコーヒーが好きでないと任せられない。彼女は家でも自分で立てるぐらいにコーヒーが好きなんだ」
 
そういえば、店内の客は若い人ばかり。私たち夫婦が残念ながら最高齢のようです。乌咖啡さんいわく、コーヒーはまだまだ中国で文化的に根付いているわけではないので、流行に敏感な若者たちがどうしても多くなるというのです。彼の店の壁には彼を描いたと思われるイラストがたくさん飾られています。聞けば、地元の美大生の常連客が描いたのだとか。そういえば、私の巨大な一眼レフカメラのシャッターをお願いした男の子も器用にカメラを扱うと思っていたら、やはり美大生ということでした。1杯のコーヒーを飲みながら、友人と話に花を咲かせたり、本を読んだり、時間をつぶしたり。彼らの青春像の一部が垣間見えるような気がします。私が調べたところでは、お茶の町・杭州といえどもコーヒーのチェーン店は多数が展開しています。しかし、そのほとんどは高級志向であったり、コーヒー以外のたとえばステーキなどの洋食を売り物にしていたりと、コーヒーそのものにとことんこだわった店というのはまだまだ少ないようです。
 
店の立地は、申し分ありません。杭州のシンボル・西湖から少し外れ、観光客はアテにできませんが、市内中心部の比較的通行量の多い通りに面し、交差点を隔てた反対側にはカルフール(家乐福)があります。彼はコーヒーを生活の一部としてとらえている節があるので、もともと対象の重きを観光客よりも生活者に置いているように思います。店の経営は見る限り順風満帆のようですが、そんな彼にも悩みがあるといいます。実は全く地下鉄の無かった杭州にもついに地下鉄工事が始まろうとしているというのです。彼の店の前の交差点あたりに駅ができるとか。そう遠くない近い将来、立ち退きしなければならないかもしれないのです。何事も社会主義のお国柄。逆らうことはできないのでしょうが、もしそうなったらこの素敵な夢が詰まった店が無くなるのはあまりにも無念です。遠くからではありますが、彼の夢がこれからもずっと続くことを願わずにはいられません。(xiong2)
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珈琲工房 への10件のフィードバック

  1. yazi より:

    お話を聞くほど行きたくなるお店ですね。
    そういえば、以前通った翻訳の短期講習の講座で使用した課題の中で、レギュラーコーヒーの中国進出の話題があったのを思い出しました。
    確か、丸紅が上海にコーヒー豆の工場を・・・なんとかかんとか。詳しくは忘れてしまいましたが、お茶の文化が根強い中国で、コーヒーの普及は難しいと考えられてきたのですが、最近では多くの海亀たちや、ビジネスマンたちにコーヒーを飲む習慣が広まっていて、都心を中心に需要が拡大しているとか。  コーヒーの文化が浅いので、レギュラーコーヒーという単語が辞書にもなく中国人の友達も答えられなかったのが印象に残っていました。
    そのまま訳せば「普通珈琲」だけど現地の人々にはなかなか通じないのが現状。コーヒーといえば「速容珈琲」=インスタントの中国において、彼らは中国におけるコーヒー文化の先駆者というわけですね。 あぁ、本当にこの素敵な夢が叶い、続きますように。

  2. - より:

    杭州にも地下鉄ができるんですね。やっぱり、中国は都会化が早いなぁぁぁ。
    ちなみにこのお店の珈琲は一杯おいくらですか?
     
     

  3. xiong2_gongzi より:

    yaziさん:
    そうそう、彼はコーヒー豆を上海の取引工場から買っているという話をしていました。時には焙煎を自分自身でするとも。その豆の供給がいちばん難しいとも言ってました。それから、店によって入れ方の違いも言ってましたね。私もコーヒーは詳しくないのですが、なおさら中国でそんな違いが分かる人はどれくらいいるのでしょうか。
    彼の店にはレギュラーコーヒーというものは置いていなかったと思います。銘柄の名前ばかりがメニューに並んでいたような。彼が私に「コーヒーは濃い方が好き、それとも薄いの?」とか聞いていましたっけ。私はこれまで喫茶店でいわゆる銘柄を指定したコーヒーというものを飲んだことがありませんでした。でも中国茶の銘柄と同じで、個性というものがあるということに今さらながら気づいた感じがしました。
     
    しほりさん:
    コーヒー1杯、いくらだったかはっきり覚えていないんですよね。彼がおごりにしてくれたり、コーヒーとは別のものを注文したり。20元から30元ぐらいかな?学生にはちょっと高いような気がしましたが、某世界的ハンバーガーチェーンのセットメニューもそんな値段でしたね。
    (xiong2)

  4. しずく☆ より:

    いい意味で中国のニオイが全く感じられないお店の佇まいですね。
    確かにオシャレに敏感な若者が集まりそうな印象を受けます!
    カッコイイマスターとオシャレなお店♪そして、アルバイトの学生さんも顔面接ですか?って雰囲気を感じます。。。
    ちょっと行ってみたいです^^;

  5. xiong2_gongzi より:

    しずくさん:
    ホント、素敵なお店です。私も杭州の町に住んでいたなら、時間を気にせず何時間でも
    店の中に長居していたことでしょうね。
     
    Tricolore:
    考えてみれば、イタリア語の「トリコロール」を直訳すると3色ということに
    なるんですな。そこから発展してイタリアの国旗のことをトリコロールっていうんだな。
    いや~、勉強になりました。→これって、コメント返し?
    (xiong2)

  6. より:

    すごく楽しそう&美味しそうです(涎)

  7. xiong2_gongzi より:

    雨叶さん:
    お久しぶりです。杭州、ほんの短い時間でしたが、よかったですよ。
    やはり私たち夫婦には中国というビタミン剤が無いと、生きていけないのかも。
    (xiong2)

  8. Shaojie より:

    自分の店を持って、夢を叶えるって素敵なことですね~
    次回に杭州へ行ったら僕もその店に入ってみようかなっ?へへへ

  9. xiong2_gongzi より:

    david-doudouさん:
    ぜひ機会があれば彼の店にお立ち寄りくださいね。
    コーヒーのある時間、空間。きっと味わい深い充実した生活を彩ってくれるでしょう。
    (xiong2)

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